残響の熊野 牛尾武 素描展より 

会津川より

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会津川より

 標高わずか600メートル余。寝そべった牛の背のような稜線(りょうせん)、見る者を威圧するでもなくのんびりとした高尾山。
 口熊野の小さな併置の西のすみっこを遠慮がちに流れ、ときたま大雨が降ると川幅いっぱいの濁流となる会津川。日照りが数日続くと川底を見せ、大河の支流にも及ばない。
 大きな船が入ることを拒む、浅くて暗礁だらけの田辺湾。
 恐らく現代の旅人には、物足りぬ風景だろう。しかし、この風土が遠い遠い昔から今に至るまで、当地の人々を豊かにはぐくみ続けてきたのだ。
 遠くから伏し拝む、高く美しく神々しい富士山のような存在より、うれしい時悲しい時、どんな時もそっと寄り添ってくれる友のような存在がありがたい。
 当地の人間は、高尾山、会津川、田辺湾のごとく、のんびりとして温かい。
 旧会津橋西のたもとより、海を背にして上流を見る。その風景は、当地に育った者の意識の奥底に静かにすみ続けている太古の記憶をそっと解き放ってくれるのだ。
 田辺に生まれてよかった。

(文  高山寺住職・曽我部大剛)


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