残響の熊野 牛尾武 素描展より 

上野山

八立稲神社

 古町の路地を通り抜け、八立稲荷神社参道に至る。一の鳥居から二の鳥居まで上って行く。二の鳥居をくぐると空気が変わり、神域に入った気配を感じる。
 さらに進み、立ち止まって足元からゆっくりと視線を上方に向けてみる。
 規則正しく造られた美しい石段。そこからは氏子の静かな熱意が伝わってくる。
 石段を上りきった少し先に神殿があり、その背後にはさまざまな樹木がうっそうとした森をつくっている。神々がすまわれるにふさわしい森。そこからは、氏子たちの家々が見下ろせ会津川の河口、田辺湾そして神島を一望にできる。
  血縁や地縁のきずなが近年急速に失われつつある。血縁や地縁を守るためには、汗を絞り血の涙を流さねばならぬ時もある。現代はその苦しみや煩わしさから逃 れ自由を手に入れたはずであるが、半面その代償の孤独に耐えられず、失ったきずなを求め人々はサークルやネットの中をさまよっている。しかしその向こうに は、さらに空虚な暗黒が待っている。
 氏子として生まれ、誇りを持って神社を守り血縁、地縁のきずなを強め集落を守る。やがて死して氏神となり子孫を守ってゆく覚悟のあった人々が多くいた時代がうらやましい。
 今も、その様にして守られている八立稲神社、これからも守られ続けてほしい。
 易きに流され大切なものを置き去りにしてきた自らを振り返り、神殿に深く頭を垂れ、かすかに森から響く声にじっと身を任せる。

(文  高山寺住職・曽我部大剛)

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